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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)1248号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人木村順次郎の上告理由第一点について。

原審が証拠により確定した事実関係に基き、本件土地の賃貸借をもつて一時使用のための賃貸借と認めたのは正当であつて、所論の判例に違反するものではない。

同第三点について。

契約の合意解除の場合には民法五四五条の適用はないのであるから、上告人らについて同条第一項但書の適用を否定した原判決の判断は結局正当であり、この点の論旨は理由がないことに帰する。原判示に即しないで法令違反及び判例違反をいうその余の論旨も理由がない。(本件土地の賃貸借は、もともと一時使用のためのものであり、中井基が、右地上の家屋を上告人らに賃貸するについて、被上告人先代卯三郎の承諾を得なかつたことは原判決の確定するところであるから、右土地の賃貸借が合意解除せられた以上上告人らは直接にも、間接にも右家屋敷地の占有使用について、被上告人に対抗すべき何等の権限をも有しないことは当然である。)

同第五点について。

原判決の確定したところによれば、被上告人先代卯三郎は、応召した夫利之祐が帰還しないため生活に困つていた中井静をして、利之祐が帰還するまで店を出し生活を支えてゆかせるため、同人の弟中井基に卯三郎所有の本件土地を賃貸したので、中井基において右地上に本件家屋を建築したが、中井基は卯三郎の承認を得ることなく上告人川崎正一、同丸岡秀子に右家屋を賃貸し、上告人吉川貫一は訴外小浜清子から右家屋の賃借権を中井基の承諾なく譲受けてこれに居住するものであるところ、その後右土地の賃貸借は合意解除せられ中井基の賃借権は消滅したものであつて、上告人らは右土地につき、卯三郎の遺産相続をした被上告人に対抗し得る占有権限を有しないものであり、被上告人は右不法占有を理由として上告人らに対する本訴土地明渡請求訴訟の進行中、共同被告であつた中井基に対し右家屋の収去、敷地の明渡を命ずる第一審判決が確定したので、右確定判決の執行を容易ならしめるため、中井基から右家屋を取毀家屋として買受けたものであるというのであつて、かかる事実関係の下において借家法第一条の適用はなく、被上告人が賃貸人たる地位を承継することはないとともに、上告人吉川貫一はもとより、上告人川崎正一、同丸岡秀子においても、被上告人との間に賃貸借の存続することを理由として右家屋及びその敷地を使用することはできないものと解するのが相当である。さればこれと同趣旨の見解の下に所論上告人らの主張を排斥した原判決は正当であつて、引用の判例は本件の場合に適切でなく、論旨は採るを得ない。

その余の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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